バイク整備

二輪車の電装 故障診断のコツ

記事の要約

この記事では不具合発生時の状況から、それをどのように読み解けば良いかを解説しています。

不具合の発生条件を確認(7項目)

まず、不具合が発生する条件はわかっていますか?
常時発生しているような不具合なら問題ありません。しかし現場でよくあるのが、

「お客さんが言ってるトラブルなんて出ないぞ…」
「どうやったら再現できるんだ??」
「トラブル出てない限り正常なんだから直しようがない…」

なんていうことがよくあります。いわゆる「再現性が無い」というものですね。
特に電装品は動きが分かりずらく、メーカーからもその仕様の全てが公開されている訳ではないので、特定の条件を満たさない限り全く異常が出ないことも多いです。

そこで故障診断をする場合、ユーザーからの聞き取りが非常に重要です。具体的に以下のようなポイントは抑えておくと良いでしょう。以下でそれぞれ解説します。

  • エンジン始動前に不具合が出るか?
  • エンジン始動から何分後に不具合がでるか?
  • 不具合がでるときの車体の姿勢
  • 不具合が出るときのスイッチ操作
  • 不具合が出るときの車速とエンジン回転数
  • 不具合が出るときの天気と季節
  • 不具合の発生頻度

不具合別に見当をつける

ユーザーから聞き取りした内容をまとめて原因の見当をつけます。以下はあくまで可能性が高いというだけで、全く別のものが原因という可能性もあります。

エンジン始動前に不具合が出るか?

考え方

エンジン始動前というのは、エンジンは冷えており、電気はバッテリーからしか供給されません。また、バッテリー電圧はおおよそ12.6V前後で、エンジン回転時は14.5V前後です。この電圧の差も影響している可能性があります。

一番再現しやすい

例えばここでヒューズが飛ぶのであれば、キーONで通電する部品に焦点を絞れば良いわけです。例えば灯火系や点火系、キーON電源で使用しているカスタムパーツなどをまず疑います。

しかしFI車の場合はキーONでほぼ全ての電装品に通電するので、あまりアテにはできないでしょう。その場合はエラーコードを確認するなどして、疑わしいところを調べることができます。エラーコードが出ない場合、ECUが管理していない部品に不具合がある可能性があります。

エンジン始動から何分後に不具合がでるか?

考え方

エンジンをかけてしばらくすると不具合が出る場合は、断線やショートよりも温度によって引き起こされる不具合を疑います。

エンジン始動直後はエンジンの温度が低く、時間とともに温まってきます。エンジン始動から不具合発生までの経過を観察することで、エンジン温度(冷却水温・油温など)が不具合にどう影響するかを調べることができます。

FI車の場合、ECUはエンジン温度(冷却水温や油温)やクランク角度、カムシャフト角度、ノッキング、吸気圧、排気ガス、スロットル開度などをセンサーで監視し、条件に見合った燃料噴射量を決定しているので、それらのセンサーが狂えばECUは正常な動きができなくなります。暖気後にエンジンの調子がおかしくなる場合はそれらセンサー類などに異常があるケースが考えられます。

また、エンジンが冷えているうちは回転数を上げたり、燃料噴射量を増やしたりする制御が働きます。これは冷間時でもエンストさせないための動作です。暖気後に不具合が発生しなくなる場合は、これらの動きに関係する場合があります。

なぜ電子部品は劣化するのか

金属やプラスチックなどは温度によって伸び縮みする性質があり、これを熱膨張などと言います。エンジンの始動と停止を繰り返すことにより、部品は絶えず伸び縮みします。部品が一つの金属やプラスチックの塊なら、部品全体が均一に伸びるのでそれほど負荷はかかりませんが、センサーなどの中は多種多様な材質の部品で構成されています。材質が違うと同じ温度でも伸び方が異なるので、その接合部には力がかかり、ミクロレベルの損傷が積み重なることになります。部品にストレスが蓄積するので温度ストレスなどとも言います。

またエンジン周辺の環境は過酷で、排熱や振動に絶えずさらされていることからも、電子部品が受けるストレスは相当なものでしょう。
センサーや電子部品が劣化する大きな原因がこの熱と振動なのです。

さて、話を戻しましょう。
エンジン始動直後は温度が低く、電子部品が冷えている状態なので何とか正常な動きをしているかもしれません。しかし、温度が上がるにつれて部品の特性が急に変化して不具合が出る場合があります。自作PCをされた方ならCPUをオーバークロックして熱暴走させる、と言えばわかりやすいでしょうか。

ただし、電子部品は一般的に通電しただけで発熱します。エンジンによる熱だけではなく自身の熱でおかしくなることもあり得ます。なので、エンジンを始動しなくてもキーONでしばらく置いておくと不具合が発生するかもしれません。その場合はセンサーと合わせて機器側(ECUや各種コントロールユニットなど)の問題も考えられます。

一番簡単な解決法

原因を判断する一番簡単で早い方法は、怪しい部品を正常な部品と交換してみることです。
「無駄な修理費を払いたくない!」
と言われてしまえば終わりなんですが、これらセンサーの良否判断をするにはまずサービスマニュアルを購入して端子間の抵抗値を測定したり、場合によっては専門的なツールによる診断が必要なケースも考えられます。もちろん、しっかり整備するならサービスマニュアルぐらいは揃えるべきでしょう。

いずれにしても、細かいセンサー類であれば消耗品と割り切って交換してみることをお勧めします。それで少なくとも原因の一つは潰せますので…

不具合がでるときの車体の姿勢

考え方

ハンドルを右に振り切る、シートに跨る、左に急旋回する…など、特定の条件下で不具合が出ることがあります。その場合、その姿勢をとった時に動く配線の断線やショートを疑います。

まず、ユーザーから不具合発生時の状況を詳しく聞き取り、車体がそのときどんな姿勢だったかを考えます。そしてそれを再現して不具合が出るか確認します。

不具合が出る姿勢を見つけたら

例えば、過去に私が見た事例で「ハンドルを左いっぱいに切るとメインヒューズが飛ぶ」ケースで考えましょう。

一見するとハンドルの動きとヒューズには何の関係も無いですね。しかし、ハンドルまわりにはヘッドライトやハンドル周りに向かう配線がたくさんあります。バイクの頸動脈とも言える部分です。ここの配線は絶えず左右に振られて屈曲しています。

その中にフレームと擦れて銅線がむき出しになっている配線を発見しました。しかし厄介なのが、常にフレームと接触しているわけではなく、左に振り切らないと接触しないのです。
このあとは損傷部分を新しい配線に変えて、以降は不具合は起きていません。

他にも、外見上は全く問題なくても内部で断線しているケースもあります。これは外からではわかりませんので、配線にテスターを繋いで例の姿勢にして導通確認をします。

不具合が出るときのスイッチ操作

特定のスイッチ操作で不具合が出る場合、これも上記と同様でその周辺のショートや断線を疑います。
例えば、「ブレーキペダルを踏むとヒューズが飛ぶ」ケースの場合は、やはりテールランプ周辺のショートや断線を疑います。

不具合が出るときの車速とエンジン回転数

考え方

特定の車速やエンジン回転数で不具合が出る場合は、振動や風圧による影響を疑います。しかし、エンジン回転域によって特殊な制御をしている車種の場合は、その動作も検討に入れます(CB400SFのVTECなど)。

振動・風圧で何が起こるか

共振という現象をご存じですか?
ある物体が、ある特定の周波数で振動を受けると大きく揺れることです。小学校の音叉の実験などが典型例ですね。実はこれがセンサーやハーネスでも起こることがあります。

過去に整備したヤマハのシグナスSVで起きた事例だと、75km/あたりで失火するが、それ以外だと全く普通に走るといった摩訶不思議な現象が起きました。当然リミッターなどは無く、それまで80km/h以上出る車両に急にリミッターが付いたような感じになりました。

原因は、ハイテンションコードが内部で断線していたことでした。この断線が曲者で、通常は導通しており、配線を曲げると不通になるといったものでした。

試しにカウルを外して、センタースタンドを立ててエンジン回転を上げていくと、高回転域でハイテンションコードが激しく振動していました。この振動しているときだけ不通となるわけです。

他にも後付けの配線が風でばたついて断線したケースも見たことがあります。
遊んでいる配線は百害あって一利なしです!タイラップなどできれいにまとめましょう。

不具合が出るときの天気と季節

考え方

もし雨天後に不具合が出た場合、浸水による電子回路やコネクタ類の接触不良や短絡が考えられます。
また、炎天下などの高温で不具合が出る場合は、「エンジン始動から何分後に不具合がでるか?」の項目で解説した内容を参考にしてください。

水分による影響

雨天などで電子回路やコネクタに浸水した場合、その時は問題が起きなくても時間がたつと接点に青錆や腐食が発生することがあります。特に凍結防止剤を撒いた地域では、その成分が腐食を加速させることになります。

FI車になったあたりから、コネクタにはゴムシール付きの防水コネクタが使用されるようになり、派手な腐食は起こりにくくなりましたが、それまでは水が入り放題のいい加減なコネクタが主流でした。

当然連続して水が入れば内部は錆びますし、場合によっては不通になります。リレーやメーターなどでも内部で結露して腐食することもあります(安価な社外品などで密閉されていない物がある)。

状態の悪い接点は、水分の影響を受けやすいので気象状況がきっかけになることもあります。その場合はとりあえず露出しているコネクタやハーネスを点検してみましょう。

不具合の発生頻度

考え方

これで直接原因を見極めることはできませんが、整備の難易度を推測することは可能です。以下に私の独断と偏見で書いてみます。

  • 毎日…ほぼ確実に再現できるので、故障診断は簡単!らくらく!
  • 2,3日に一回…このレベルなら再現方法も簡単に分かるだろう!
  • 1週間に一回…これは再現できない可能性があるので、ヒアリングは念入りにやろう
  • 1か月に一回…季節的なものかな?天気や特殊な使い方をした可能性もあるな
  • 半年に1回…うわ、ほぼ再現不可能じゃね?ほぼ正常じゃん!
  • 一年に一回…これは困った。下手したら1年待たないと再現できないかも…

といった感じです笑。
特に半年とか1年レベルになると、軽微な不具合であれば一応各種点検をして、不明なら一度返して、不具合が出たら連絡してその時状況を聞くといった対応にしたいところです。めったにありませんし、1年後にはバイクが変わってる可能性すらあるので、うやむやになることが多いと思います笑。

まとめ

いかがでしたでしょうか?ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
電装品の故障診断は、自動車整備のなかでも特に難易度が高いですが、基本的な部品の仕組みを抑えれば理解が早まると思います。電気の理解には配線図を書くことが一番の近道です。電気を教えて頂いた方からは、「電気で悩んだらまず配線図を書け」と、くどく言われたものです。この記事が皆様のバイクライフのお役に立てば何より幸いです。

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tonton
はじめまして、トントンです! このブログでは、ものづくりをこよなく愛する私が今までに得た知識や経験、ノウハウ、加工方法などを発信していきます。 30代の製造業のおっちゃん、主な生息地は大阪の工業地帯、好きな企業は静岡鐵鋼所とHiKOKIです!よろしくお願いします! 主な資格は、二級自動車整備士(ガソリン・ディーゼル)、大型自動二輪、普通自動車免許、危険物取扱者乙種(1~6)など